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私のパソコン遍歴


はじめてパソコンを手にいれたのが、1987年7月発売された東芝のJ-3100GTだった。 Harddisk20MB、CPUi286 8MHz、Memory 640Kb、オレンジ色のフラズマディスプレイが印象的だった。 まず、パソコンという道具を美術史の研究に使うにはどのようなAprication Soft がよいのか考えた末、データベースソフトでまず、データを入力してみることにした。まず購入したのは、アスキー社(当時)のThe CARD 3というカード型のソフトだった。 手元に久野健編「造像銘記集成」があったので、まず、それを入力することにした。手頃な1600件ほどの数量なので、始めるにはちょうどよいデータだった。 所蔵者名、彫刻名、紀年、像高、品質、構造、作家名等の項目を設定して、入力を始めた。途中で、年号変換のためのデータを作成した。 また、所蔵者の住所の入力を軽減するために、住所データを別に作って、参照入力できるようにした。単なる住所録ではなく、ついでに寺院・神社の沿革・宗派・山号・院号・開山・開基・史料文献等を入力する項目を設けた。そして、彫刻データもつくることにして、形状、品質、保存状態、像高等、客観的な項目を設定した。

CARD 3というソフト

CARD 3 というソフトは、初心者向きで大変使いやすいソフトだった。 可変長データをあつかえること、インデックスファイルの中身が見えること、そして、このソフトの一番の長所は、一項目中のデータをSHIFT+改行で複数のインデックスが入力できることであった。 これによって、同一項目を複数設定しなくてもよくなった。このデータ形式(配列型というらしい)はその後いくつかのデータベースソフトを試したが、CARD 3しかない形式であった。 しかし、所詮、カード型のデータベースでしかなく、複数のデータベースに対して重複項目は避けられず、リレーショナル型に移行するのは時間の問題だった。 また、CPUの能力の問題もあって、全文検索をするのに非常に時間がかかった。さらに、5000件をこえると、インデックスファイルが入力できなくなるなど、ソフトの限界が見えてきてしまった。

dBASE 3Plusというソフト

当時、RDB(リレーショナル型デーダベース)で、業界を席巻していたこのソフトを大枚20数万円も出して購入した。今度は、本格的に設計からはじめて、文献目録のシステムを作ることにし、まずは、文献の分類インデ ックスのコードをつくることにした。 図書館でつかわれているNDCのような汎用的なものではなく、美術史という分野に限ったコード表の作成をめざした。分類コード、地域コード、時代コード、尊像コードの4種類を階層的に4桁の番号を付けるようにした。 とくに、分類コードでは、彫刻、絵画といった大分類から、さらに、材質、形態、主題の分類に細分化した。 尊像コードでは、仏像、仏画の形態をすべてコード化した。dBASEは、基本的にはXBASE言語という言語ソフトで、プロミラミングをしなければ使えないソフトであった。BASICも習得したことがない筆者にとって、プロミラミングははじめての経験だった。半年、独学で悪戦苦闘して、やっと2000行ほどのコードを書いて挫折した。 失敗の原因は、設計が初心者にとって、あまりに複雑すぎたこと、コード表があまりにも詳細すぎたことで、データを入力するときに文献のコード付けに迷ってしまったために、統一がとれなくなってしまったことであった。

ハードの進化

世の中、MS-DOSから、WINDOWSに移行しようとする時期だった。ハードもディスクトップにすることにした。SORDのSR-3300から、東芝のJ-3300へと買い換えた。CPUもi386になり、やっとカラーの画面になった。OSもWINDOWS3.1になって 安定してきた。それまでは、ソフトの肥大化にOSとハードが追いつかず、MS-DOSのコンベンショナルメモリの制限に四苦八苦していた。そこで、WINDOWS用のRDBを使ったデータベース作りを再開することにした。

DBProというソフト

当時、MS-DOSでは、「桐」が大変評判だった。 しかし、東芝版は販売されず、WINDOWS化が遅れていたために、「桐」に似たWINDOWS版のDBProを使うことにした。今回は、今までの反省から、データの入力を中心にしながら、項目の設定及び入力するデータの表記方法をそのたびごとに改変する方法をとることにした。 ソフトの能力がどの程度なのか、どこまでできるのかが見極められなかったためもあるが、日々進化するソフトに目を奪われ、システムとしてまとめる時間を使うよりもまずデータの蓄積の必要性を感じたからであった。手元には、入力しなければならない資料が山積していた。 「彫刻」データ、「寺社」データ、「銘記」データを中心として、ひたすら、データの入力に明け暮れた。 DBProというソフトはプロミラミングをしなくても、そこそこ使えるソフトで、プログラムに一度挫折した筆者にとっては、有り難かった。しかし、 RDBでいう和集合(DBProでいうビューファイル)をおこなうと、一度別ファイルに読み込むという操作をするために、時間がかかった。また、ビューファイルでは、データの更新ができないなど、制約があった。 項目の設定、データの入力の表記方法もこなれていき、データもある程度まとまったところで、『人文学と情報処理』13号(勉誠社刊)に「彫刻データベースの設計と入力基準の具体例」という論文を投稿した。

そしてACCESSへ

ハードもPROSIDEで組み立てたものから、自作機にうつり、ハードのスペックに不満は少なくなってきたが、やはり、最初にもどって文献目録をあらためて作成する決断をした。 そして、ACCESS2000を導入した。その頃は、国会図書館、大学図書館、地方図書館等、でインターネットを介して検索できるようになってはいたが、 このような一般的な図書館の検索システムには、納得のいくものがなかった。 そこで、既存の図書検索システムとは違ったコンセプトを考えることにした。まずは、美術史とくに彫刻に 関連した特定の図書目録とすること、そして、図書の内容もデータとして入力することを考えた。 具体的には、雑誌テーブルと単行本テーブルをつくり、それぞれに内容をレコードにするサブテーブルとして論文テーブルを作成して、全論文テーブルで統合するようにした。 雑誌はそれぞれの図版、論文をレコード化すればよかったが、単行本、とくに調査報告、展覧会図録はそれに掲載されている作品のひとつひとつの図版解説を1レコードとすることにした。そして、他の単行本でも、見出しがあるものはそれが数行の解説であっても、それで1レコードとした。 これは、彫刻作品の参考文献として詳細な表記ができるようにするためである。 インデックスは、単行本テーブルには、分類、地域分類、時代分類をもうけて、ごく大ざっぱな形にした。全論文テーブルには、形態分類、大分類、詳細分類、作家、地域コード、地域分類、時代分類のインデックスを設定した。 これで、今までの彫刻テーブル、寺社テーブル、銘記テーブルと合わせて、リレーションを設定した。以下、下記のような構成とした。 まだ、既存の重複項目が残っているが、順次整理していくつもりである。

インデックスについて

全論文テーブルに設定したインデックスのうち、[形態分類]、[大分類]と[地域コード]は、ポップアップメニューで選択するようにした。[形態分類]は論文、解説、図版、資料、目録、地図、年表、書評、雑 に分類した。[大分類]は 基本的におおまかな分類を考えた。パソコンは画面を見ながら操作するのが基本であり、手元にコード表あるいは、分類目録を参照して入力するものではないからである。 従って、人間の記憶あるいは、すぐに発想できる量におさえておかなければならない。人間がすぐに発想できる量とは、せいぜい20~30程度のキーワードであろう。 美術史の分類でいえば、作品から分類すると、絵画、彫刻、工芸、書跡、建築、庭園、考古ということになろう。しかし、美術史に関連する論文は必ずしも、作品のみを主題としていないから、それ以外の分類を考えて、美術総記、文化財、歴史、民俗、史料、宗教、地理、保存科学、寺院、神社、人物を加えることにした。 ここにいう分類表記の定義について、詳しく解説しなければならないのであるが、煩雑になるので、一部解説すると、「寺院」「神社」とは、いわゆる寺院・神社史、寺院・神社の沿革ついての論考をさす。ある論文目録ではこれを建築史の中に含んでいるが、むしろ、別分類としたほうがわかりやすいと考えた。 さて、ここで問題になるものが二点ある。ひとつは、石造美術といわれる分野である。石塔・石窟・画像石・板碑・石仏・磨崖仏は今までの分類のどれに含めたらいいのかという問題である。 石仏・磨崖仏は彫刻に含めるのはいいとしても、石塔・石窟は建築に含むのだろうか。画像石は絵画に含めるのか、板碑は歴史か民俗資料か、それでは、画像板碑はどうなのか、という問題である。これに関しては、「石造物」という分野を新たに設けたほうが、現在の分類の発想としてはよりわかりやすいのではないかと考えた。 彫刻・絵画のような形態分類に石造物という素材分類をいれることには整合性がないという批判はあるが、むしろ、そこは、厳密にするよりも、より一般的な用語を使った方が発想しやすいのではないだろうか。もうひとつは、「図像」という分野である。 「図像」は絵画と彫刻の二分野にまたがる要素をもち、教義的な主題を持った論文ならば、宗教の要素も持つことにもなる。 大分類のキーワードは並び替えを考慮して、1項目1表記を原則としたいので、「図像」の分野を設けることにした。 そのほかに、絵画、彫刻などの分野に含まれない作品を主題とする論文、たとえば、美術史に関連する芸能史、行事、文宝四宝などは、「諸芸」とした。また、博物館・美術館・個人コレクターについての論考には、「所蔵者」の分野を設けた。 以上、まとめると、大分類は美術総記、文化財、彫刻、絵画、工芸、書跡、図像、建築、庭園、石造物、諸芸、考古、歴史、寺院、神社、人物、史料、地理、保存科学、民俗、宗教、所蔵者、雑 の23項目となる。 まだ、これらに含まれない論考があるとおもわれるが、現在のところ、これで美術史に関連する論考を網羅することができるのではないかと思う。分類は例外をつくらないこと、分類の数をできるだけ少なくすることが基本であり、その結果、このような23項目になった。 検索者は、この23項目の表記の意味を理解した上で、まず大分類で、抽出作業をおこなうことからはじめることになる。つぎに、「詳細分類」をもうけたのは、いわゆるフリーキーワードによって、さらに詳細な抽出を行うためである。作品の特徴的な形式、たとえば、善光寺式、清凉寺式、仏画、装飾画、懸仏、鏡像等のキーワードである。 これについても、実際には、キーワードのリストをつくって、そのリスト内での表記にしなければ抽出の意味をもたない。いたずらにキーワードをつくって意味の重複した表現をつくれば、注出作業に支障をきたすのはいうまでもない��������である。そこには、キーワードひとつひとつにその定義をしておかなければならない。 この「詳細分類」はあくまでも注出作業のみに使用するので、複数表記がゆるされる項目である。

時代分類について

彫刻テーブルで使われている時代分類は、[世紀コード]と[時代]の二本立てでおこなうことにしている。美術史における時代分類の表記方法は、さまざまな論考があり、その文化的、様式の表現としての時代の名称はそれ自体重要なことであるが、むしろここでは、彫刻作品の時代判定に関してどのような表記がよりベターであるかを考えてみることにする。 パソコンで入力する側から見ると、その彫刻作品の時代判定が定まらない場合の入力をどうするかが問題となるのである。たとえば、「藤末鎌初」は時代と時代の境界と考えればインデックスの表記として工夫のしようがあるが、「室町~江戸」といった時代判定はパソコンに入力する上でどういう項目の設定をしたらよいか、判断に迷うのである。 時代分類はそれで、並び替えをおこなわなければならないために、複数の時代分類項目を設けることはできない。また、データベースでは、1項目1データが原則であり、1項目に複数データをいれたのでは、抽出はできても、並び替えができない。この問題を解決する方法としては、データベースの構造をさらに分割して、いわゆる「第三正規形」にまでもっていかなければならない。 しかし、それをしたとしても、作品の前後関係まで、並び替えることはできないのである。そこまで、構造を複雑にしてまでという思いもあり、現在は、「世紀コード」との併用の道を選んでいる。世紀コードは5桁の数字で構成されていて、最初の2桁は時代コード、次の2桁は世紀、最後の1桁は、0:頃、1:初期、3:前半、5:中頃、7:後半、9:末期とする。たとえば、江戸時代、17世紀前半ならば、 「10173」 というコードとなる。 これによって、銘記等によって、西暦が判明しているデータと併用して並び替えをしても、あくまでも、その世紀の範囲内で単なるグループわけができるにすぎない。 作品の前後関係まで並び替えることはできないのである。現在のところはこれが並び替えという作業の限界というところかもしれない。

銘記について

パソコンに銘記をどう表記したらよいか、この問題はいまだに解決策がみつからない。銘記でいう第1次資料が写真、籠字、拓本とすると、第2次資料は活字による校訂本ということになるが、銘記集、調査報告に表記される銘記の校訂は、銘記のレイアウトまで表現できていないのが現状であろう。 銘記そのものは、いわゆる紙に書かれている史料とは違って字形の大きさ、文字の配置などが重要な要素であり、欠字の表現をどうするかなどによって、内容の解釈の重要な判断の材料となる。いわば、第1.5次資料としての表現方法が必要なのである。 これを表記する方法として、LXとXMLの採用を考えてみた。LXは組版ソフトとしては、自由度が高く、漢文などの表記ができるstyleファイルがすでに開発されているが、銘記を表現するには、それ用のStyleファイルの作成が必要である。 また、あくまでも組版としてのソフトであり、たとえば、LXデータを全文検索するために、画面で操作するにはまた、それなりのstyleファイルが必要となる。XMLも同様に銘記用にXSLを作成しなければならない。 いずれにしても、ある程度プログラムを書かなければならない。また、データベースソフトとどう結合させていくかが問題となる。

これから

以上 さまざまな問題をかかえながら、まだまだ解決しなければならない作業が山ほどある。今まではソフトの進化とともに、いかに便利にしていくかを問題にしていたが、ともすれば、ソフトの側の、あれもできる、これもできるといった戦略にまどわされてきたきらいがある。美術史の研究にとって、どの機能が使えて、どんな機能が必要かを見極めていかないと、既存のソフトの一般的な操作方法に取り込まれてしまうことになる。 本来的には、美術史研究のための道具としてパソコンをどう使うかなのであり、ソフトがそうなっているからそのように使うのでは、本末転倒なのである。あくまでも、パソコンを使わなかった時 の研究方法を基本として、それを補完するための道具としてのパソコンという位置づけをしなければならない。そうはいっても、あまりにも、風呂敷をひろげすぎた。個人的なデータの整理としてはじめたデータベースがこんなにも厖大になるとは、思いもよらなかった。次から次へと、野望がひろがり、正直収拾がつかなくなってしまった。もう個人でできる限界をこえてしまったのかもしれない。部分的にまとめる方法を模索するしか方法がないのは、わかっているのだが、検索、抽出のもれをなくすということを考えるとそうもいかないのが現状である。結局、今までのように、ひたすらデータの入力に没頭するか、詳細な入力、検索マニュアルを作って、後事に託すということしか今の筆者には、道がないのである。 天命を知る年になった筆者には、いままでのように、時間の区切りを考慮しないで自由に思考をめぐらすといった余裕が徐々になくなってきてしまった。もう白道が遠くに見え始めてきた。単なる愚公で終わるのか、山を移せるのか未だ不安との闘いの中にいる。(2003年3月01日執筆了)